こんにちは。琵琶湖博物館 環境学習センターの布川です。先日、菜の花による循環型社会づくりを話し合う「第15回 全国菜の花サミット」が滋賀県東近江市で開催されました。ここでは2日間にわたるサミットの様子をお伝えします。
【菜の花サミットって?】
休耕田で育てた菜の花から採った菜種油の廃食油を燃料に再利用する「菜の花プロジェクト」が1998年に同市から全国に広まったのを機に2001年から毎年開催されているサミットです。第15回目となる今年はエネルギー・食・まちづくりなどの視点でプロジェクトの方向性が活発に議論されました。
【菜の花プロジェクトって?】
菜の花プロジェクトは、地域の資源を地域の中で循環させる取組を通じて暮らしのあり方を見直し、持続可能なライフスタイルの再生を目指す取り組みです。[ 詳細は
菜の花プロジェクトネットワークのウェブサイトへ ]
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【サミット1日目:2015年4月25日】 於:八日市文化芸術会館
経済評論家・内橋克人氏の基調講演後、資源循環型社会構築に向けた各地の事例報告がなされました。
★ 油藤商事・青山裕史氏「まだまだおもろいで!BDF! 拡がる可能性」
全国に先駆けてバイオディーゼルの精製プラントを導入し一般販売を開始した油藤商事の、エネルギーの地産地消を目指した様々な活動を紹介されました。[
琵琶湖博物館 環境学習センターのウェブサイト「エコロしーが」では、環境学習プログラム提供者として油藤商事さんを紹介しています ]
★ NPO地域づくり工房・傘木宏夫氏「国産菜種オイル普及協力会の取り組みをひろげよう」
菜の花エコプロジェクトがきっかけで長野県の中山高原で始まった菜種オイルの生産について。プロジェクトの目的は、遊休荒廃地や人材などを「資源」とみなし、それらを活用しつつ循環型の市民事業を確立することでした。ここではその経緯と、まだ広くは知られていない菜種オイルの魅力が語られました。[ → 詳細はサミット2日目の記事へ ]
★ 池田牧場・池田喜久子氏「池田牧場のFEC(フード・エネルギー・ケア)の取組」
生産者と消費者の距離が遠くなっていく世の中で、どうすれば農業・農村が消費者と共に歩めるのだろうかと考え、ジェラートの加工販売、地産地消の農家レストラン、里山宿泊体験施設の運営を進めながら、農山村の多面的機能を都市部の人たちに伝える場づくりを行ってきたことなど、これまでの事業展開が語られました。私たち人間が自然に生かされていることに感謝し、それを伝えるための事業をしているとのお話には、ハッとさせられました。
★ 東近江圏域 働き・暮らし応援センターTEKITO センター長兼支援ワーカー・野々村光子氏「働き・暮らし応援センター事業」
「障がいや、働くことに不器用さを持っている若者を応援する仕組みが身近な地域に存在したら」という思いから、就労支援と「地域の困りごと」とを結び付けた様々な取組を実施。支援対象者を貴重な地域の担い手として掘り起こし、地域課題の解決に向けた活動の場へ導くことにより、地域を支える人材へと育成し、地域の人々などとも連携することで地域の経済循環を生み出す取組について講演されました。
★ あいとうふくしモール運営委員会・野村正次氏「あいとうふくしモールが目指すもの 食・ケア・エネルギーが充足した安心の拠点」
2013年4月、東近江市小倉町にオープンした「あいとうふくしモール」。ここには高齢者や障がい者の働く施設「あいとう和楽」と、デイサービスセンターなど高齢者の生活支援施設「結の家」、地元食材を活用した郷土料理の提供や福祉施設への食事提供、配食サービスを行う福祉支援型レストラン「野菜花(のなか)」が並ぶ。「菜の花プロジェクトをビジネスにしたい」「地域課題をプラスに変えたい」との想いから、「食・ケア・エネルギーという暮らしの根幹部分が連携した安心の拠点を目指している」と同モールの役割が語られました。
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パネルディスカッション「菜の花プロジェクトはほんまに地域を元気にしたんかいのぉ」
コーディネーター:菜の花プロジェクトネットワーク・藤井絢子氏
パネリスト:先の事例報告で登壇した池田氏、野々村氏、野村氏
「第3回 全国菜の花サミットin大朝(広島)」にて、「菜の花プロジェクトは、ほんまに地域を元気にするんかいのぉ」との問いかけがなされたことを受けて、今日まで資源循環型社会構成を目指してきた菜の花プロジェクトの取組は真の豊かさに結びついたのかが討論されました。最後に三日月知事が登壇、地域を元気にする種が東近江をはじめ全国各地で確実に育っていることに言及し、今後への期待を込めた激励の言葉が贈られました。
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ロビーでは全国菜の花サミット15年の軌跡が紹介され、展示室では東近江特別展が同時開催されていました。東近江名物の大迫力の大凧や薪プロジェクト、木工製品・麻製品・布引焼・創作人形などの東近江のものづくり、暮らしを次世代につなげるための取組が紹介されていました。
展示室を出ると近江政所茶のスタンドがあり、「近江政所茶レン茶゛ー(チャレンジャー)」の皆さんが休憩していきませんか、と声を掛けてくださいました。井上製菓さんが八日市高校と産学共同で企画製造を手掛けた和菓子「あかね」と一緒に一服。口の中で政所茶の風味と「あかね」の優しい甘みが広がり、ほっこり幸せ気分に。
政所茶レン茶゛ーの山形さんが政所茶について教えてくれました。
「『宇治は茶処、茶は政所』と茶摘み唄にも歌われるほど、政所茶は古くから全国に名の知られたお茶でした。幼少期の石田三成が豊臣秀吉に献上したとされる『三献茶』がこの政所茶であったという逸話もあります。寒暖差が激しく朝霧が発生しやすい政所の気象条件が茶葉栽培に適しており、茶樹もこの土地ならではの希少な在来種を無農薬で栽培しています。一方で、大量生産できる品種ではなく、機械も入りにくい地形のため採算が合わず、茶業従事者の高齢化も進み存続の危機にあります」
「『政所茶レン茶゛ー』は東近江市政所町にて、お茶づくりを通して地域活性化にチャレンジするチームです。滋賀県立大学の学生や社会人が、約500平方メートルの茶畑を借り、地元の茶農家の指導のもと、肥料入れや草取りから茶摘みまで一年を通して茶畑の作業を実践しています」
一杯のお茶の背景にある物語を知ると、お茶がいっそう美味しく感じられるから不思議です。
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【サミット2日目:2015年4月26日】
サミット2日目は道の駅あいとうマーガレットステーションなど3ヵ所で分科会を開催。「菜種オイルソムリエを目指そう」と題した会では、全国各地で作られた菜種油が紹介され、参加者にふるまわれました。
長野県大町市で菜種オイルを作る
NPO地域づくり工房代表の傘木宏夫氏のお話です。
「菜種ヴァージンオイルとは、精製工程を経ない、搾りたての新鮮さと素材本来の風味をダイレクトに味わえる油です。種の種類、収穫時の天候、乾燥方法、搾油方法、ろ過方法、そして湯洗いや水洗いの有無により、味も色も香りも異なります。その個性あふれる味わいは、料理に合わせて油を使い分けるという楽しみを与えてくれます」
「フレンチの鉄人・石鍋裕シェフの助言で注文搾油方式のヴァージンオイルを手がけて約10年。その年の天候や作付け地など、それぞれに違った風味があることを学ぶなかで、より深く菜種オイルについて研究し、広げていきたいと考えるようになりました。将来、イタリアやスペインのオリーブオイルソムリエ認証制度のような仕組みをつくることができればと願っています」
和風だしのスープや小松菜のシフォンケーキなど、菜種オイルとの意外な組み合わせも紹介され、参加者の皆さんは「油によって味が違う」と舌鼓を打っていました。驚くほど奥深い菜種オイルの世界、興味が尽きません。この会に参加してみて、今はまだ広く知られていない菜種オイルの実力のこと、こんなに良いものが日本中でたくさん作られているのだということを、ぜひ多くの人に伝えたい!と思いました。
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昼には愛東コミュニティセンターで閉会式典が行われ、全国の有志延べ700人が集まり「地域を元気にする力強いモデルづくりに取り組む」との
サミット宣言が発表されました。
・・・(前略)・・・私たちは、地域の未来が「どうなるか」を考えるのではなく、地域自らが「どうするか」を選んでいかなければなりません。
私たちは時代の消費者ではなく、時代の生産者です。
私たちは歴史の観客ではなく、歴史の主役です。
私たちは政治の脇役ではなく、政治の主人公です。
第15回全国菜の花サミットin東近江で私たちは、菜の花プロジェクトが地域を元気にしてきたことを確認し、FEC(フード・エネルギー・ケア)自給による持続的な地域社会の実現に向けて意見交換しました。この菜の花サミットに参加した私たちは、地域を元気にするための力強いモデルづくりに今後も取り組むとともに、私たちが求める豊かさの実現に向け、「地域の意思を国家の意思としていくこと」を国に強く求めていくことを宣言します。
(
第15回全国菜の花サミットin東近江 サミット宣言より一部引用)
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午後からはエクスカーション「満開の菜の花畑散策とファームキッチン野菜花(のなか)」に同行しました。ファームキッチン「野菜花」は、前日の事例報告にて野村氏がお話しされた「あいとうふくしモール」内の福祉支援型レストランです。
愛知川の堤防に面した一面ガラス張りの窓から暖かな春の日差しが入り込み、店内はぽかぽか。目の前にはのどかな田園風景が広がり、ゆったりとした時間が流れます。
自家畑や地元農家の野菜をたっぷり使った彩り豊かな地産地消ランチ。とっても美味しそうです。
昼食後は皆で愛東コミュニティセンターの近くにある菜の花畑を散策。黄色い波がうねうねと連なるさまは圧巻です。
管理者の方のお話を聞きながら、「とってもきれいだけど、これだけの面積を完全有機栽培で管理するのは大変だろうなぁ……」と思っていたら、たまたま隣にいた参加者の女性が「あぁ、この畑は手入れが楽やわぁ」と呟くではありませんか。約3,6ヘクタールもの広さの畑、約350万本もの菜の花の手入れがどうして楽なのだろう?気になって後で尋ねてみると、その方は長年愛知県の渥美半島にある複数の菜の花畑を世話しているそうです。一つひとつの畑は小さく、それらの総面積はここの畑とほぼ同じだけれど、畑が各地に点在しているぶん手間が掛かるのだそうです。なるほど、畑と一口で言えど地域ごとに様々な事情があり、それぞれの特色にあわせた生産がなされているのですね。
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取材後、道の駅あいとうマーガレットステーションにて、東近江市愛東(上記の畑)産の菜種を100パーセント使用した「天然菜たね油 菜ばかり」をお土産に購入しました。NPO地域づくり工房・傘木宏夫氏のお話を思い出しながら、どんな食材と合わせたらおいしいかな?といろいろ試しています。香り高く天然由来のコクがあり、周囲の評判は上々です。皆さんも栄養豊富な菜種オイルを日々の生活に取り入れてみませんか?ちなみに写真の
「菜ばかり」はNPO法人 愛のまちエコ倶楽部が製造・販売しています。地域を元気にする“おいしい輪”が、家庭から全国に広がっていくといいですね。
2日間にわたる「第15回全国菜の花サミットin東近江」を取材して、菜の花や、菜の花プロジェクトを機に生まれた様々な縁、ビジネス、そして多くの可能性にふれることができました。次回の全国菜の花サミットは奈良県で開催されます。どんなプロジェクトが飛び出すのか、これからも菜の花プロジェクトに注目していきたいです。
琵琶湖博物館 環境学習センター 布川 恵理